人間失脚

恥の多い生涯を送っています

【展覧会レビュー】府中市美術館『ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅』

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府中市美術館で開催されていた『ポール・デルヴォー 夢をめぐる旅(オデッセイとかなんとかルビがついてたような)』に行ってきました。

何度かこの美術館についての感想は書いていて、その中でも繰り返していますが、本当にここの美術館は市立でありながら毎回工夫を凝らした展示で楽しませてくれます。

今回のキャッチコピーなんて「夢に、デルヴォー」だし。笑

1階スペースは無料で利用できたり、とても地域に密着した美術館なのに、挑戦的な特別展が開けるのって理想的だなあと思う。

不勉強ながら、今回の展覧会に行く前は、デルヴォーの絵ってそういえばなんとなく見たことあるな、くらいの印象しか持っていませんでした。

なんとなく堅牢で静謐な雰囲気の漂う不気味な絵を描く画家だな、という感じ。

今回の展覧会は、デルヴォーの生い立ちを追いながら、彼の夢見た世界を辿るというもの。

裕福な家庭に生まれ、美術を学ぶことや結婚を当初は反対されながらも、最終的には愛しのタムと結ばれ画家としての名声を手に入れるデルヴォーの生涯は、この展覧会を見る限り、とても恵まれていて、幸せで、嫌味のない素直な人物のように見えてくる。

シュールレアリズムの表現に強く影響を受け、その潮流に身を置きながら、他のシュールレアリストたちとは距離を取ったという姿勢が、とても象徴的だと思う。

シュールレアリズムの作家やあるいはその作品に見られるような一種のひねくれや、ちょっと反社会的な感じ、マイノリティっぽさみたいな後ろ暗いものを、少なくともこの展覧会で描き出されている彼の人物像からはあまり感じられない。

展覧会中盤のセクションではデルヴォーが好んで用いたモチーフ、

①欲望の象徴としての女性

②生を象徴する骸骨

③列車、駅

④古代の建築物

⑤生家やふるさと、身の回りのものの記憶

の5つに注目して展示が構成されていました。

しかしデルヴォーの描く女性はそれが裸婦像でも、あまりエロティックな印象を受けない。

それよりむしろ、目が大きくて、まつ毛がぱっちり、白い肌で細くてすらっとしたその姿は言うなれば「お人形さん」。

リアルな肉体としての女性像よりも、理想の中の女性を描いている、という感じがする。

それと列車と古代の建築物のモチーフなんかは本当に男の子の好きなものって感じ。

列車や建築物のしゃんとした雰囲気の描写なんかは、建築学科時代の記憶が表れているんだろうか。

展覧会タイトルにも現れている通り、デルヴォーの絵はまさに少年の理想と夢が詰まったものという印象。

展示の背景を暗いネイビーの壁が飾っているのも、そういった印象をいっそう強く演出していたと思う。

また、タムと踊る自分を描いた小さな素描なんかはとっても可愛くてオシャレ。

作家の持つ無邪気さなんかもそこに感じる。

タムの死を境にデルヴォーは筆を置いたそうですが、最後の油彩画となったカリプソを描いた絵、これもとても良かった。

ほとんど目も見えなくなり、それまでの作風とは全く異なる雰囲気になってしまっているものの、幻想的で穏やかなカリプソの絵柄は、展覧会の解説の通りだけれども、彼が生涯かけて追い求めた女性の理想像(理想の女性像ではない)が現れていた気がするなぁ。

シュールレアリズムの作家の展覧会であったけれど、総じて小難しい印象は受けず、作家を肯定的に紹介する展覧会だったと思いました。

欲を言うなら、素描や習作の展示が多かったので、もっと油彩画を次々に見たかったところ。

出口の先に設けられたデルヴォー本人のアトリエにあった小物のコレクションも良かったです。汽車の模型がかわいい!

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おみやげにミュージアムショップで買ったちょうちょのしおり。かわいい